前編 後編

519:  2014/11/20(木) 13:57:27.84 0.net

4日目の朝 彼女を抱き上げたとき、ふとかつて僕らの間にあった、あの愛情に満ちた「つながり感」が戻ってくるのを感じた。
この人はこの女性は僕に10年という年月を捧げてくれた人だった。








5日目、そして6日目の朝 その感覚はさらに強くなった。
このことを、僕は「奈美恵」には言わなかった。

日にちが経つにつれ妻を抱き上げることが日に日にラクになってゆくのを感じた。

なにせ毎朝していることなので、腕の筋力もそりゃ強くなるだろうと 僕は単純にそう考えていた。

520:  2014/11/20(木) 13:58:50.55 0.net

ある朝、妻はその日着てゆく服を選んでいた。

鏡のまえで何着も何着も試着してそれでも体にピッタリくる一着が、 なかなか見つからないようだった。

そして彼女は「はあ~っ」とため息をついた。
「どれもこれも、何だか大きくなっちゃって。。。」 その言葉を耳にして、僕はハッ!とした。
妻はいつの間にやせ細っていたのだ!

妻を抱き上げやすくなったのは、僕の腕力がついたからではなく 彼女が今まで以上に軽くなっていたからだったのだ!

521:  2014/11/20(木) 14:01:40.09 0.net

愕然とした。
それほどまで、やせ細ってしまうまで彼女は痛みと苦痛を胸のなかに。。。
僕は思わず手を伸ばして、妻の髪に触れていた。

そこに息子がやってきた。
「パパ、ママを抱っこして『いってらっしゃい』する時間だよ!」

息子には、父親が母親を毎朝抱き上げるこの光景を目にすることが すでに大切な日常の一場面となっているようだった。

妻は、そんな息子にむかって「おいで」と優しく手招きしたかと思うと 彼を力いっぱいぎゅっと抱きしめた。
僕は思わず目をそらした。

そうしないと、最後の最後で、気が変わってしまいそうだったからだ!

522:  2014/11/20(木) 14:03:07.46 0.net

僕はだまって、いつものように妻を腕に抱き上げ寝室から、リビング、 そして玄関口へと彼女を運んだ。

妻はただそっと、僕の首に腕を回していた。

そんな彼女を、気づいたら強くグッと抱きしめていた。

そうまるで、結婚したあの日の僕のように。。。
彼女の、それはそれは軽くなった体を腕のなかに感じながら僕は例えようのない悲しみを覚えていた。

523:  2014/11/20(木) 14:05:36.70 0.net

そして最後の朝、妻を抱き上げたとき 僕は、一歩たりとも歩みを進めることができなかった。

その日息子はすでに学校へ行ってしまっていた。

僕は妻をしっかりと腕に抱き、そして言った。

「今まで気づかなかったよ。 僕たちの結婚生活に、こうしてお互いのぬくもりを感じる時間がどれほど欠けていたか・・・」
そして僕はいつもどおり仕事へ向かった。

何かにせき立てられるように、とにかくここで、最後の最後で自分の決心が 揺らいでしまうのが怖くてそれを振り切るかのように、車を停めると鍵もかけずに飛び出し オフィスのある上の階まで駆け上がっていった。
気が変わってしまう前に、オフィスへ行かなければ。
早く「奈美恵」のもとへ!

524:  2014/11/20(木) 14:07:13.28 0.net

ドアを開けるとそこに「奈美恵」がいた。
彼女を見た瞬間、僕は思わず口にしていた。

「奈美恵、すまない。 僕は離婚はできない。」

奈美恵は「はあ?」という目で僕を見つめそして額に手をあてた。
「あなた、熱でもあるの?」

僕は奈美恵の手を額からはずし、再度言った。

「すまない、奈美恵。僕は離婚はできないんだ。」

「妻との結婚生活が『退屈』に感じられたのは、彼女を愛していなかったからではなく 僕が毎日の小さな幸せを、他愛のない、だけどかけがえのない小さな日常を 大切にしてこなかったからなんだ。 今頃になって気づいたよ。 あの日、あの結婚した日僕が彼女を腕に抱いて家の中へ初めての一歩を踏み入れたあの日のように僕は死が二人を分つまで、彼女をしっかり腕に抱いているべきだったんだ!」

525:  2014/11/20(木) 14:08:59.21 0.net

「奈美恵」はようやく事の次第を理解したようだった。

そして僕のほっぺたを思いっきりひっぱたくと、扉をバタン!と閉め ワーッ!と泣き叫びながら飛び出して行った。

僕はそのまま黙って階下に降りた。
見ると、花屋が目にとまった。
僕はそこで、妻のためのブーケをアレンジしてもらった。
店員が「カードには何とお書きになりますか?」と聞いてきた。
僕はふと微笑んで、言った。
「そうだね、こう書いてくれ。」

『毎朝君を腕に抱いて見送るよ。死が二人を分つ、その日まで...』

その日の夕方、僕は妻への花束を抱え、顔に笑顔をたたえて家についた。

526:  2014/11/20(木) 14:10:41.49 0.net

はやる気持ちで階段を駆け上がる!

早く早く!妻のもとへ! 出迎えてくれた妻はベッドで冷たくなっていた。。。。

何も知らなかった。
僕は、何も知らなかったのだ。
妻が「ガン」であったことさえも。
奈美恵との情事にうつつをぬかしていた僕は、 妻がこの数ヶ月必死で病魔と戦っていたことに気付きさえしなかったのだ!
妻は分かっていたのだ。
自分がもうじき死ぬことを。

彼女が出してきた「離婚の条件」は僕を責めるものではなく、僕を救うためのものだったのだ!

自分亡き後、最愛の息子から僕が責められることがないように。

527:  2014/11/20(木) 14:12:04.11 0.net

毎朝お母さんを抱き上げて優しく見送るお父さん。

そうそういう僕を毎朝見ていた息子にとって僕はまぎれもなく
「お母さんに離婚をつきつけたお父さん」ではなく「お母さんを最後まで愛したお父さん」となったのだ。

529:  2014/11/20(木) 14:31:14.13 0.net

あほくさ と思って読んだけど 最後が泣けた

530:  2014/11/20(木) 14:44:02.68 0.net

再構築切望だけど、私はこんなのごめんだな。

そりゃ、シタへの思いやりとか、配慮とかさ、大事にしたいよ。

でもこんな形で報われたくない。
残り少ない人生なら、シタや子どものその後も大事にしたいけど、私だって思い切り幸せ貰いたいよ。

こういう美談読むと、なんかモヤってして、幸せ貰いたいって望んで何が悪いこん畜生って思っちゃう。

素直な気持ちになれないの、やっぱり私、痛んで病んでるんだろうね。

533:  2014/11/20(木) 16:39:09.41 0.net

私は報われなくても子供のためになるならいいかなって思った
父親を憎む人生はかわいそう 最後に子供にしてあげられる事ならば構わない

534:  2014/11/20(木) 19:10:06.65 0.net

この奥さんはもう余命がないから、慰謝料も財産の分割も求めなかったんだね。

もし病気でなければ、子どもを育てるためには慰謝料や財産の分割は必要だもん。

子どもにお父さんとお母さんの綺麗な想い出を残してあげたい、そんな気持ちと、心は自分に向いてなくても、自分はいつ死ぬかもわからないから、最期にもう一度 夫に抱きしめて欲しかったんじゃないかな。

そして自分の想いが、夫に届いたことを知らずに亡くなってしまった。
1度かけ違えてしまうと、心を通い合わせることは本当に難しい…。

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